多くの現代人が“デジタル疲れ”を感じるようになってきたようです。そして、その疲弊感の反動として今、巷に浮上してきたのが「アナログ回帰」という現象です。アナログレコードやカセットテープ&ラジカセ、フィルムカメラ&インスタントカメラなどから、ボードゲーム、手書きの手帳、クラシカルな純喫茶、昭和ポップスといった、いわゆる“レトロブーム”を形成するアナログチックなモノたち。それらに共通するキーワードは、“手間”と“味わい”。いずれも、均一化された質感のデジタルとは一線を画す、所有して楽しむことで得られる体験価値を提供してくれます。
興味深いのは、これらの現象が、昭和世代の懐古趣味的なムーブメントかと思いきや、けん引しているのは意外にも10〜20代の“Z世代”と呼ばれる若者たちだったのです。サブスクの動画や音楽配信サービスを活用し、かつ、どの世代よりも即時結果を求めてタイパ(時間的効果)を重んじると思われていた世代の若者が、あえて少し不便でひと手間かかるモノに魅了される現象。生まれながらデジタルに囲まれて育った“デジタルネイティブ世代”だからこそ、アナログに惹かれる“アナログビギナー世代”でもあったということです。
例えば、アナログレコード。2023年のレコード生産数は3年前の2.5倍に増加(日本レコード協会)。東京都内の大手レコードショップでは、2011年から2021年の10年間でレコードの売り上げが約25倍に跳ね上がり、それに伴い、アナログレコード専門のフロアも2倍に拡張。世界的に見てもこの流れは顕著で、近年、米国や英国ではレコードの売上高がCDを追い抜くという現象が見られます。
“新しいレトロ”の動きも話題になっています。[リコー]が12年ぶりにフィルムカメラの新モデルを発売して一躍人気に。[富士フィルム]は半世紀ほど前のレトロなデザインを採用したミラーレスカメラを発売。操作もあえてタッチパネルではなく、昔ながらのダイヤル操作を復活。そのほか、往年のデザインを再現したラジカセや「ドラゴンクエストIII」が36年ぶりにリメイクされるなど、先進技術に対する一種のカウンターカルチャー的にアナログチックなデザイン・操作性・手触りのようなものが再評価されてきています。
Z世代の若者たちは、外出中はスマホで音楽配信サービスを利用し、自宅ではレコードに針を落として音楽を楽しむというように、“デジタルvsアナログ”と互いに敵対関係ではなく、共存する関係から新たな満足感を生み出そうとしています。その表れとして、自分のアナログ体験を一人で楽しむだけでなく、SNSなどを通じて他者と共有。アナログ体験が、新たなコミュニティ形成のコンテンツとなり、“昭和のレトロ”が“令和のデジタル”で生まれ変わるのです。
※参考:
(一社)日本レコード協会 https://www.riaj.or.jp/
リコー https://www.ricoh.co.jp/
富士フィルム https://www.fujifilm.com/jp/ja/
日経МJ(2025年1月10日付/同1月13日付/同1月15日付/同1月20日付)
かつては“子どもの食べ物”というイメージが強かった「ふりかけ」市場が、今、記録的な売り上げを見せています。特に、[丸美屋食品工業](東京)、[三島食品](広島)、[永谷園](東京)のふりかけ大手3大メーカーが中心となってけん引する市場は、2022年9月ごろから目立った伸びを見せ始め、2024年度には、最高だった2000年を更新して過去最高(575億円)を記録。その要因は、物価高を背景とした消費者の節約志向の継続にあります。実質賃金の目減りの時期と、ふりかけ市場の拡大時期がほぼ重なるという、複雑な状況が見られます。
そういえば、1993年の“平成のコメ騒動”でタイ米が緊急輸入された時や、バブル崩壊で日本経済がデフレ基調に陥った2000年代にもふりかけ市場は活況を呈したものです。家庭で“食卓の危機”が発生すると、“安価・時短・種類豊富”がセールスポイントのふりかけが、庶民の味方として重宝されてきた歴史と実績があります。
現在、およそ1000種類を超えるふりかけが出回っているといわれています。
“ふりかけと言えば”の代名詞的商品が、業界の王者「のりたま」(丸美屋)。誕生したのは1960(昭和35)年で、今年65周年を迎えるロングセラー商品です。
“ふりかけ=子ども商品”という常識を覆し、1989(平成元)年に[永谷園]から発売されたのが「おとなのふりかけ」。“大人も満足できるふりかけ”を掲げ、素材・パッケージ・ネーミングなど、大人対応に開発。35年以上たった今も、その人気は衰えていません。
最近人気なのは、様々なメーカーとコラボした“再現ふりかけ”というカテゴリー。[CoCo壱番屋]が監修した「カレーふりかけ」(三島食品)や[エバラ食品]の「黄金の味」を使用した「焼肉ふりかけ」、牛丼チェーン[松屋]の牛めしを再現した「牛めし味ふりかけ」(共に、ニチフリ食品)など。
しかし、ここにきて、好調のふりかけ市場に“ある悩み”が発生しています。
猛暑など異常気象の影響によるコメの不作から在庫量が減少し、ふりかけにとって欠かせぬパートナーであるコメの価格が上昇していること。それに加えて、コメの1人当たりの年間消費量が1962年をピークに年々減少(農水省)。ピーク時の半分近くまで落ち込んでおり、その傾向は今後も続き、年間10万トンずつ減っていくという説も。つまり、私たち日本人のコメ離れが静かに進行しているという、ふりかけにとっては由々しき問題が横たわっているのです。
コメの需要が減っているのに、ふりかけの市場は拡大し続けるという、皮肉な状況。このまま“コメ不足”“米価の高騰”“国民のコメ離れ”が常態化すると、せっかくのふりかけ業界の快進撃に水を差す事態になりかねません。
※参考:
丸美屋食品工業 https://www.marumiya.co.jp/
三島食品 https://www.mishima.co.jp/
永谷園 https://www.nagatanien.co.jp/
ニチフリ食品 https://www.nichifuri.co.jp/
農林水産省 https://www.maff.go.jp/
私たちが日ごろ口にするコーヒーの豆は、主に“ロブスタ種”と“アラビカ種”の2種に分けられます。世界のコーヒー豆生産量の約4割を占めるロブスタ種は、苦みが強いのが特徴で缶コーヒーやインスタントコーヒーなどの原料に使用されます。一方、全体の約6割を占めるアラビカ種は、高品質で香りや風味に優れ、私たちがいわゆるブラックで飲んでおいしいと感じる品種です。今、このアラビカ種の栽培に適した土地が、このままでは25年後に75%も減少してしまうというのが「コーヒー2050年問題」(国際調査機関「WCR:ワールド・コーヒー・リサーチ」発表)で、おいしいコーヒーが今のような値段で飲めなくなる日が来るかもしれないとの危機感が、世界中のコーヒー党の間を駆け巡っています。
世界で消費されるコーヒーのほとんどが“コーヒーベルト”と呼ばれる、赤道をはさんで北緯25度と南緯25度の間の限られた帯状の地域で栽培されています。そこに位置するのは、エチオピア、インドネシア、ベトナム、グアテマラ、コロンビア、ブラジルなど、コーヒー名産国といわれる国々です。
標高1000m程度の山岳地帯でしか栽培できないアラビカ種の成育はとても繊細で、良質な豆に育てるには、“雨量・日当たり・気温・土壌”の4条件をすべて満たしていることが求められます。成長期には多くの雨が必要で、逆に収穫期は乾燥していないといけません。寒さには非常に弱く、暖かな陽光を好むものの、日光が強すぎるとダメ。日陰も必要で、昼夜の寒暖差は大歓迎。
そんな、繊細で栽培が難しい植物のため、地球温暖化がもたらす降水量の減少や気温・湿度の上昇などの影響には特に敏感です。例えば、コーヒーの成育には雨季と乾季が必須ですが、記録的豪雨が発生したかと思えば、干ばつが起こるといった極端な気候になると、夜間に気温が下がらず、昼夜の寒暖差が少なくなるといった弊害がすでに起こり始めています。さらに、降水量の減少と気温の上昇は、コーヒー栽培の天敵である“さび病”という感染病を引き起こす原因にもなります。
このまま異常気象が進めばコーヒー業界への影響は計り知れません。まず、栽培地が減ることで豆の生産量が大幅に減少します。それがコーヒー農家の収入減による貧困化を加速。同時に、雨季と乾季のメリハリがあってこそおいしく熟するコーヒー豆にとって、この境目がなくなるということは品質上、致命的とさえいえるのです。
しかし、そのような生産量の減少が懸念される一方で、世界全体のコーヒーの消費量は年々増加しています。そのため、これまで均衡を保ってきた需給のバランスが崩れ、コーヒー豆価格の大幅な高騰を招くことにつながる恐れが。
WCRが警鐘を鳴らしている「コーヒー2050年問題」の対策に、世界の企業が立ち上がっています。
[キーコーヒー]は2016年より、WCRと共に高温や病害に強い品種の開発を。[スターバックス]ではコスタリカにある自社農園を拠点に、気候変動やさび病に耐えられる品種の研究開発を。[ネスレ]は“ネスカフェプラン”を発表し、さび病に強い苗木の改善やコーヒー生産者の生活を支援。2030年までに約1750億円を投入。[味の素AGF]は耐病性が高く、土壌の改良を促すとされる肥料を開発。また2017年から、鹿児島県で国産コーヒーの生産支援を。[ファミリーマート]は昨春、同店の「モカブレンド」1杯購入につき1円を、この商品で使用しているコーヒー豆の産地、エチオピアへ寄付する取り組みを行っています。
「2050年問題」は、一部の地域の、そしてコーヒー豆だけに関する問題ではありません。この問題の根っこには“地球温暖化”が潜んでいるのは確かなこと。
私たちは、コーヒーを飲むたびに、コーヒー豆が育つ遠い赤道直下の地で起きていることに思いを馳せ、知らないことの多さに改めて気付かされます。
コーヒーの未来は、地球の未来でもあります。50年までには、あと25年……。
※参考:
全日本コーヒー協会 https://coffee.ajca.or.jp/
キーコーヒー https://www.keycoffee.co.jp/
スターバックスコーヒー https://www.starbucks.co.jp/
ネスレ https://www.nestle.co.jp/
味の素AGF https://agf.ajinomoto.co.jp/
ファミリーマート https://www.family.co.jp/